診療内容

脊柱管狭窄症

腰椎骨には、図2-1に示すように、孔が開いており、これが上下に連なってできた管を脊柱管と呼びます。この管に脊髄を入れています。そして脊髄は以下の組織で取り巻かれています。脊髄の前方では、椎体の間に椎間板があり、椎間板の後には、後縦靭帯という縦に走る靭帯があります。そして脊髄の後方の椎弓板の間には黄色い「黄色靭帯」があります。つまり脊髄は、椎骨、椎間板、後縦靭帯、黄色靭帯に囲まれており、これらが変形やヘルニア損傷や肥厚などで脊柱管の中心に向かって出っ張ると、脊柱管が狭くなり脊髄を圧迫するようになり、脊柱管狭窄症を引き起こします。
つまり脊柱管狭窄症は、椎骨の変形、腰椎ヘルニア、腰椎すべり症や黄色靭帯の硬化症などで脊柱管が狭くなった疾患です。それにより、間欠性跛行と言って、「歩き出してしばらくすると足や腰がしびれたり,痛んだり,だるくなったりして歩けなくなる」症状があります。
そのために、日常生活に支障がでます。60~79歳に多発する病気で、「いつも」または「時々」と答えた人数は, 全体の60%になる。難治性の病気の一つです。
間欠性跛行が起こる仕組みは、以下の通りです。脊柱管狭窄症では、図2-3に示す腰椎の2番目以下にある、馬の尾に似た馬尾神経が、黄色靭帯や椎骨の変形で圧迫されて下肢の疼痛やしびれを引き起こします。馬尾神経には、図2-4に示すように、縦方向に血管が分布しており、神経根に酸素と栄養を供給しています。
腰部脊柱管の内腔が狭くなると、馬尾神経の栄養血管が圧迫されて狭くなっています。歩行時に上半身の荷重(体重の約60%)で腰椎の前弯が強くなると脊柱管がさらに狭くなり、血管の圧迫が強くなりまる。そのため、馬尾神経の血流が悪化し下肢の疼痛やしびれにより歩行が困難(間欠跛行)になります。
このように、歩行時の殿部・下肢の箇所の痛み・痺れ、灼熱感の仕組みは、脊髄を栄養している血管が圧迫されて起こる血流障害が原因です。新経絡治療は、手術をしなくても効果的に歩行時のしびれ、痛みを改善します。その効果の機序は、脊柱管周囲および脊髄血管の血流を改善し、脊柱管の周りの組織の炎症による浮腫を軽減することで脊柱管の狭小化を改善すると同時に、脊髄血管を修復して拡張させて血流を改善するためと考えられます。

脊柱管狭窄症の模式図:馬尾型と神経根型がある
図2-1. 脊柱管狭窄症の模式図:馬尾型と神経根型がある
菊池:日整会誌, 62: 571, 1988より引用
脊柱管狭窄症の模式図
図2-2. 脊柱管狭窄症の模式図
脊柱の構造と馬尾神経:馬尾神経は、腰椎2番目以下の脊髄神経根の集合である。
図2-3. 脊柱の構造と馬尾神経:馬尾神経は、腰椎2番目以下の脊髄神経根の集合である。
脊髄の動脈と静脈:脊髄には縦方向に栄養血管が走行しています。
図2-4. 脊髄の動脈と静脈:脊髄には縦方向に栄養血管が走行しています。
表2-1. 馬尾型と神経根型の違い
病型 馬尾型 神経根型
共通 神経性の間欠跛行
自覚症状 下肢・臀部・会陰部の異常感覚(灼熱感) 下肢・臀部の疼痛
他覚所見 多恨性障害 単根性障害

表2-1は、馬尾型と神経根型の症状を比較したものです。馬尾型は、黄靭帯の肥厚による両側性の灼熱感が特徴です。神経根型は、椎骨の変形やヘルニアによる、片側性の神経根の圧迫による下肢・殿部の疼痛です。共通な症状は、歩行時の下肢・殿部の症状による歩行障害です。神経根型は、治りやすいが、馬尾型の自然治癒は困難です。



治療症例1
65歳女性 脊柱管狭窄症
主訴
歩行時に右殿部~下肢全体の痺れ、痛みがでる、歩行障害
8年前から、間欠性跛行が出現し、ペインクリニックで、100回以上のブロック注射を行うも軽快しない。2年前の1月、腰の3/4、4/5番の椎間板の手術を行う。1年前の2月、腰の2/3、3/4番の椎間板の手術を行い、痛みが軽快した。しかし、同年12月、痛みが再発し、朝の起床が不可になり、歩行障害が起こる。同年12月にブロック注射を行う。今年1月に自宅で3週間の安静を行い、仙骨硬膜外ブロック注射、点滴注射、ホットパックを行い症状が軽減するも歩行時の下肢のしびれ、痛みの症状が残っている。
職歴・既往歴
23年間、一般事務作業に従事している。45歳の時に朝、ぎっくり腰を起こす。時々、腰痛のため、整形外科でリハビリをしていた。
殿部および下肢の症状
図2-5. 殿部および下肢の症状
MRIによるL3/4, L4/5のヘルニア
図2-6. MRIによるL3/4, L4/5のヘルニア
治療経過
症状: 腰部右斜め前屈時に、胆経(下肢外側の経絡)の下腿の疼痛がある。
1回の治療
胆経の痛みがほぼ消失し、歩行がスムーズになった。また、右足が伸ばせるようになった。
2回の治療
胆経の痛みは消失した。
15回の治療
歩行がほぼ改善した。
19回の治療
右下腿の痛み10点→0点に改善した。
右大腿の痛み10点→3点、歩行10点→0点へ改善した。
まとめ
2回の手術でも間欠性跛行が再発し、改善しなかった脊柱管狭窄症の症状が、新経絡治療で消失した症例です。このように、新経絡治療は、脊柱管狭窄症には著効を示します。
治療症例2
70歳の女性 L4/5 脊柱管狭窄症、すべり症

10年前から腰痛が始まる。中腰姿勢などで痛みを自覚。2年前に腰痛が悪化し、H整形受診。MRIは年齢相応の診断。X-pでL4/5のすべり症の指摘。鎮痛剤の内服、注射するも効果が無かった。年末に、御主人が亡くなり、後片付けが大変で無理をした。
階段昇降は、7段以上で、左腰の痛みが出る。20分の坂道で、左腰痛が出る。中腰は、2-3分でこたえる。しゃがみ姿勢は、正常、椅座位は、 1時間が可能である。

腰・下肢の所見
図2-7. 腰・下肢の所見
L3,L4の前方すべり、L5の後方すべり、L3/4,L4/5,L5/S1の脊柱管狭窄を認めます。
図2-8. L3,L4の前方すべり、L5の後方すべり、L3/4,L4/5,L5/S1の脊柱管狭窄を認めます。
L3.4椎間孔狭小化、黄色靭帯肥厚による背側面からの馬尾神経の圧迫
図2-9. L3.4椎間孔狭小化、黄色靭帯肥厚による背側面からの馬尾神経の圧迫
L3/4、L4/5、L5/S1の狭窄
図2-10. L3/4、L4/5、L5/S1の狭窄
治療経過
1回目治療
朝L4の痛みがある。
1回治療後
横向きになると痛い。
3回治療後
柔らかいベッドを布団に変える。
6回治療後
蒲団使用10日目。朝の腰の動き軽快。
15回治療後
痛み軽減、鈍痛が残存している。
21回~26回治療後
腰痛が改善し海外旅行に行く。
35回治療後
ベッドに板を敷いている。現在、朝、腰が伸びる。
65回治療後
朝の腰痛が良好。
71回治療後
腰の右側の痛み。ハイヒールが原因と考え中止する。
72回治療後
靴を替えると歩行時の右臀部痛が低下した。
75回治療後
腰痛が低下し、朝の腰痛もわずかになる。略治として治療終了する。

難治性の脊柱管狭窄症が、手術なしで、新経絡治療に人間工学的な対策を加えて改善しました。このように、辷り症がある症例でも、新経絡治療は有効です。その後も長期にわたり経過を観察しましたが、症状は再発しておらず、経過良好です。

脊柱管狭窄症の治療成績

対象者は、2005年〜2015年に脊柱管狭窄症の疑いで当院を受診した41名の内、日整会の腰部脊柱管狭窄症診療ガイドラインの4条件を満足し、5回以上治療し、データ完備した 18名を解析した。
治療は、狭窄部位に対して膀胱経、腎経を中心に連接、補強、相克を行う。 1回の治療は15分程度です。
治療評価は、歩行可能距離により行った。1歩の歩幅を50cm、 1時間の歩行距離を 4kmとして推定した。

対象者の診断基準の4条件: 日本整形外科学会の腰部脊柱管狭窄症の診療ガイドラインに従った。
1)殿部から下肢の疼痛やしびれを有する。
2)殿部から下肢の疼痛やしびれは立位や歩行の持続によって出現あるいは増悪し、前屈や座位保持で軽減する。
3)歩行で増悪する腰痛は単独であれば除外する。
4)MRIなどの画像で脊柱管あるいは椎間孔の変性狭窄状態が確認され,臨床所見を説明できるもの。

表2-2.脊柱管狭窄症患者の属性(n=18)
性別 男性6人(33.4%)
女性12人(66.7%)
平均 SD
年齢(yrs.) 68.7 8.9
観察期間(week) 15.7 12.4
重症度(歩行可能距離)
 
正常(1000m以上) 0( - )
軽度(500~999m) 5(27.8%)
中等度(250~499m) 5(27.8%)
重度(250m未満) 8(44.4%)
表2-3. 病型と属性
病型 馬尾神経型(%) 神経根型(%)
N(%) 8(44.4) 10(55.6)
男/女 2/6 4/6
年齢(平均±SD) 70.3±8.7 67.5±9.3
初診時歩行距離(m)(平均±SD) 432.9±275.7 237.8±297.3
新経絡治療前と治療後の歩行距離の変化
図2-11.新経絡治療前と治療後の歩行距離の変化
表2-4. 病型と治療回数、歩行距離等
病型 馬尾神経型 神経根型
N 8 10
治療回数(回) 42.8 ± 42.8 ns 22.5 ± 17.8
初診時歩行距離(m) 432.9 ± 275.7 ns 237.8 ± 297.3
終診時歩行距離(m) 2775.0 ± 2468.7ns 1816.7 ± 1078.6
大変改善(%) 7(87.5) 8(80.0)
かなり改善(%) 2(20.0)
少し改善(%)
変化なし(%) 1(12.5)

ns p> 0.05、治療回数に有意差はない。(Welchのt-test(治療回数、終診時歩行/ t-test(初診時歩行))

結果

新経絡治療の回数は、平均31.5回でした。歩行可能距離は初診時平均324.5mで、終診時に2242.6mと約7倍に改善しました。疼痛やしびれなく歩行1000m以上への改善を「大変改善」、500m〜1000m「かなり改善」、250m〜500m「少し改善」、それ以下又は改善なしを「変化なし」としました。
大変改善は83.3%とかなり改善を合わせると、94.4%でした。新経絡治療は、歩行改善効果が高く、馬尾神経の炎症、脊柱管の浮腫みおよび脊髄血管の血流改善効果が示唆されます。