診療内容

発達障害

宇土博 著、発達障害は改善します
図3-1. 宇土博 著、発達障害は改善します。

発達障害には、「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害」等があります。脳の機能障害であって、その症状が通常低年齢において発現するとしています。(発達障害者支援法 2005年施行)
世界保健機関WHOによるICD-10の疾病分類で、発達障害は、心理的発達障害(F8)の中で、1)会話および言語の特異的発達障害(自閉症)、2)学力の特異的発達障害(学習障害)、3)運動機能の特異的発達障害、4)混合性特異的発達障害、5)広汎性発達障害、6)その他に分類されます。また、アメリカ精神医学会によるDSM―V(2013年)では、神経発達症群/神経発達障害群の中に7つに分類されています。

1)知的障害
2)コミュニケ―ション障害
3)自閉症スペクトラム障害(ASD)
4)多動症/注意欠陥(AD/HD)
5)限局性学習障害(LD)
6)運動障害群(発達性協調運動障害、チックなど)
7)他の発達神経障害群

我国の0〜24歳の発達障害者は、約180万人と推定され、国民的な大きな課題となっています。近年増加しています。発達障害の発生要因の解明は、研究途上にありますが、出産時の腦障害、幼児期の頭部外傷および気質の伝播が主因であると考えています。

発達障害の推定される要因
図3-2. 発達障害の推定される要因
 

1950年代のアメリカの発達障害の専門医であるロバート・フルフォード医師は、発達障害の原因として周産期・幼児期の腦損傷を指摘しています。

ロバート・フルフォード医師
図3-3. ロバート・フルフォード医師
(1905〜1997 カンザスシティ・オステオパシー外科医科大学)

彼は、その著書の中で、
①出産時の頭部外傷が増加し、発達障害を引き起こしている。
②幼児期の息が止まるような激しい落下や転落による頭部外傷が発達障害を引き起こす。
と指摘しています。私たちも、臨床経験から、出産時障害が多く、これに頭部外傷および親などの自閉症やAD/HDの気質の伝播が加わると考えています。
さらに、近年は、切迫流産・早産防止薬(ウテメリンなど)の2週間以上の使用が自閉症の要因となることが指摘されています。また、脳神経に影響する農薬(ネオニコチノイドなど)が自閉症の要因になることが指摘されています。

発達障害の要因の頻度
図3-4. 発達障害の要因の頻度

図3-4は、友和クリニックを受診し、発達障害と診断された人446人の発症要因をまとめたものです。1人に要因が重複するため、100%を超えますが、妊娠・出産時の問題が最も多く80.2%を占めます。次いで、幼児期の頭部外傷が37.0%、第3位は、親などからの気質伝播が32.5%を占めています。これに対して、先天的な要因は、2.6%と極めて低い結果でした。
このように見てきますと、遺伝的な気質も関連しますが、発達障害の多くは、周産期・乳幼児期など発達時期における頭部外傷に起因すると考えられます。石橋徹は、「頭部外傷は、成人では、高次脳機能障害を引き起こすが、発達時期には、発達障害を引き起こす。」ことを指摘しています。
従って、発達障害の予防には、愛護的な出産、転落などの頭部外傷の予防、安静を中心とした流産・早産の予防、農薬の規制などが大切です。
我が国の、自閉症の発生率は、韓国に次いで、世界第2位とされる。農薬の多用が指摘されています。
発達障害の問題は、幼稚園から大学までの学校保健、そして就職後の産業保健の大きな課題です。

発達障害の新経絡治療

これまで、発達障害には、訓練が中心で、治療法がないとされてきましたが、日本新経絡医学会における研究では、これまで730例以上の発達障害の患者の新経絡治療が行われてきました。その結果、学習障害、アスペルガーを含む自閉症スペクトラム、AD/HD、運動発達障害に対する治療研究で、その8~9割に改善効果を認めます。

行動療法と汎化

これまで発達障害の教育・訓練には、行動療法が行われてきました。これは、行動主義の学習理論に基づいた治療法の総称です。「適応行動と同様に不適切な問題行動もまた学習されたものと考えます。そして、不適応行動には、条件付けが不足しているものと過剰なものがあると考え、不足しているものは増加させ、過剰なものは減らす条件付けのプログラムを作成して、不適応行動を減弱させ、適応行動を強化するものです。」これは、舩井幸雄が主張した、短所を矯正する「短所矯正法」ではなく、「長所伸張法」という、長所を伸ばして短所を解消する方法に似通っています。この方が分かりやすいですね。
技法としては、条件付け不足に対してはオペラント条件づけ療法、過剰に対しては条件制止療法などが行われます。

オペラント行動
(operant behavior)
ヒトや動物において積極的な行動を起こして環境に働きかける操作的な学習行動で、条件行動(conditioned behavior)の一種です。報酬(快刺激)を獲得するために学習行動(learned behavior)は正強化オペラント行動と呼ばれ、不快刺激を避けるために学習行動は負強化オペラント行動と呼ばれます。(南山堂医学大辞典)
オペラント条件付け
(operant conditioning)
ある自発的な行動の後に刺激が加わることでその行動が生じる頻度が変化することを言います。幼児が偶然ある行動(例:勉強する)をしたときには親が賞賛し、勉強しないときは賞賛しないことを繰り返すと、その幼児が勉強する頻度が増す行動原理です。
ウタ・フリスは、行動主義治療に対して、「社会性とコミュニケーションの欠陥は、新しい学習をすれば正しくの伸びる誤学習とみなされました。しかし、行動療法-行動主義の原則への実際の適用―には途方もない労力を必要とし、しかもたいていそれに見合う成果は得られないことが判明しました。ある特定の学習から期待された汎化は起こりませんでした。毎日の生活には、以前に学習した行動では不適当な新しい状況が常にあり、新しい行動の広がりが必要なのでした。それでも、特定の問題行動に対処するには、行動療法は今もなお役立つ手法です。」と述べています。
これは、行動療法が、特定の問題行動の対処には適しているが、応用的な場面が困難なことを示しています。
新経絡治療は、脳の回路を活性化することで、一を聞いて十を知るような汎化が起きます。500回教えても理解できなかった繰り上がり計算が、新経絡治療をすることで、子供が、突然に「分かった」と言うことがよくあります。これは、汎化が起こることを示しています。この汎化が起こることが新経絡治療の優れた点です。従って、発達障害の治療には、新経絡治療と教育・訓練を合わせて行うことが必要と考えています。

新経絡治療の改善効果の機序は、以下のように考えられています。
1)脳の神経細胞は新生する

長い間、損傷された脳神経細胞は、修復が出来ないとされ、非損傷部の訓練によってこれを補うリハビリが行われてきました。しかし、近年の研究で、末梢神経に比べて、修復速度は遅いが、修復されることが明らかになってきました。
従来の脳の神経細胞は修復されないというドグマの根拠は、スペインの神経科学者ラモン・カハール(1852~1934)が人間の脳を調べ、「脳には、未発達な神経細胞が見当たらないため、脳では新しい神経細胞は生まれない」としたことに由来します。そして、長くこのドグマが、支配的な考えでした。我々も、医学生時代には、このように教育を受けました。
しかし、1998年に、ソーン研究所のフレッド・ゲージ博士は、記憶を司る海馬の歯状回に新生細胞を発見し、脳が再生可能であることを明らかにしました。

フレッド・ハリソン・ゲージ(Fred Harrison Gage, 1950年―)は、アメリカの神経科学者。ソーク研究所の遺伝学の教授。哺乳類の成体脳と脊髄に、多能性幹細胞を発見し、成体脳におけるニューロン新生と、構造的および機能的可塑性を発見した。(HNK記事/Wikipediaより)
記憶を司る海馬とその拡大図の海馬の歯状回細胞
図3-5.記憶を司る海馬(左)とその拡大図(右)の海馬の歯状回細胞(NHK記事)
2)手足の鍼刺激で脳の神経細胞の活性化や血流が増加する

矢野は、脳の血流を検査するPETを使って、手の穴(ツボ 合谷)の鍼の15分の通電刺激で、脳皮質のブドウ糖代謝、酸素、血流が増加することを報告しています。これは、手の鍼刺激が、脳細胞の活性化を起こすことを示唆しています。

脳機能に影響する経穴(大腸経)の合谷の穴(鍼麻酔に使われる穴)
図3-6. 脳機能に影響する経穴(大腸経)の合谷の穴(鍼麻酔に使われる穴)
合谷―手三里の穴の鍼通電刺激で脳のブドウ糖代謝が増加します。
図3-7. 合谷―手三里の穴の鍼通電刺激で脳のブドウ糖代謝が増加します。
ネズミの手足の鍼刺激は、脳血流を増加させる。
図3-8. ネズミの手足の鍼刺激は、脳血流を増加させる。

図3-8は、内田による、麻酔をしたネズミの手足のツボを刺激すると脳血流が増加することを示したものです。

左手掌の押し棒でのツボ刺激で顔面の皮膚温が上昇します。
図3-9. 左手掌の押し棒でのツボ刺激で顔面の皮膚温が上昇します。

図3-9は、私たちの研究で、左手掌のツボ刺激で、無処置に比して顔面の皮膚温度が上昇することを示す研究です。内田らの研究を支持するものです。

新経絡治療では、プラセボに比して、百升計算速度が有意に上昇します。
図3-10. 新経絡治療では、プラセボに比して、百升計算速度が有意に上昇します。

図3-10は、新経絡治療で、百升計算の速度が、無処置に対して、有意に増加することを示したものです。プラセボでは、有意差は認められません。新経絡治療による手足のツボ刺激で脳が活性化され、計算速度が上昇したと考えられます。
これらの研究は、手足の穴の刺激が、脳の活性化を起こすことを示すものであり、発達障害のツボ刺激効果の基礎的な根拠になる研究です。

高機能自閉症に対する新経絡治療の集団的な効果の研究

この研究は、高機能自閉症の患者を対象にした新経絡治療の効果を研究したものです。2010年6月~2014年3月までに受診した高機能自閉症の患者30名の内6回以上新経絡治療を受け、」データの完備した17名を解析した。治療は、上位中枢の膀胱経、腎経を中心に連接、補強、相克の治療を1回、10分行う。評価尺度は、発達、感情、運動、聞く、読む、書く等の障害の30項目で、4段階で評価し、3点、2点、1点、0点を割り当て、治療効果を評価した。その結果、大変改善は11名(64.7%)、かなり改善は5名(29.4%)、少し改善は1名(5.9%)、変化なしは0名(0.0%)であった。かなり以上の改善者率は、94.1%であった。
高機能自閉症は、気質伝播により社会脳等の結合回路の弱さを基盤に、周産期異常等で脳の経絡の詰まりが加わり、発症すると考えられます。新経絡治療は、脳の経絡の詰まりを改善し、脳神経の結合回路を修復・調整して高機能自閉症を改善させると推測されます。

表3-1. 対象者の属性
総数17名
性別男性16(94.1%)女性1(5.9%)
年齢9.0±5.5歳(2歳~22歳)
病型高機能自閉症(アスペルガー) 14名(82.4%)
高機能自閉症(アスペルガー)+てんかん併発 2名(11.8%)
高機能自閉症(アスペルガー)+先天疾患 1名(5.9%)
治療前後の発達障害項目の評価
図3-11. 治療前後の発達障害項目の評価
治療前後の感情項目の評価
図3-12. 治療前後の感情項目の評価
治療前後の運動項目の評価
図3-13. 治療前後の運動項目の評価
治療前後の聞く、読む項目の評価
図3-14. 治療前後の聞く、読む項目の評価
治療前後の書く、算数項目の評価
図3-15. 治療前後の書く、算数項目の評価
新経絡治療による高機能自閉症の改善率
図3-16. 新経絡治療による高機能自閉症の改善率
治療事例1
7歳 女児 高機能自閉症
出産経過
微弱陣痛で陣痛促進剤投与。過強陣痛になり、難産で、看護師がお腹に乗り、吸引分娩をする。陣痛開始から44時間後に出産した。
気質の伝播
父方の祖母は、計算が不可で状況対応がうまくできない。母方の叔母は、AD/HDで計算が苦手。
発育過程
歩き始めるのが2歳頃と遅く、始語は3~4歳で、言葉が遅い。
1人遊びをする。5歳頃まで分からないことを言っていた。年中でも友人と遊べない。
4歳、療育センターで、高機能自閉症と診断される。
6歳、WISCIIIで全検査82、言語82、知覚推理85、記憶79、処理速度96の結果であり、ややIQが低い。
現在は、小2で普通学級。
偏食:ご飯、芋、パンなど白いものしか食べない。
小1の時から、服、靴、カップなど身の回りのものは、全て黄色でないといけない。
自転車に乗れない。計画が狂うとパニックになる。
緊張すると聴覚過敏が強くなる。計算、繰り上がりが分かりづらい。時計もわかりづらい。新しい場面で緊張する。
新経絡治療の経過
新経絡治療は、膀胱経と腎経の連接、補強、相克治療を行う。
初回治療直後
初回の治療で、筆圧が強くなり、字が綺麗になった。折り紙も角を合わせたので母親が驚く。
1回治療後
新しいメニューの中華の酢ものを出すと、初めて食べ、完食した。これまで、新しいメニューは、気味悪がって、食べることはない。母親が驚く。
折り紙の折り方が「やっと分かった」と言って、綺麗に折れた。
5回治療後
本物の時計が分かるようになった。
意味のある言葉を話すようになった。
新経絡治療後に、連絡帳の字が綺麗になり、母親が驚く。
治療により、連絡帳の字が綺麗になる。
図3-17. 治療により、連絡帳の字が綺麗になる。
31回治療後
母親の評価
●計算をするのが早くなった。
●絵を描いて色を枠内に塗れるようになった。
●お話の理解が深まり、かんしゃくを起こさなくなった。
●学校で言われたことを伝えてくれる。
●会話がつながるようになった。
●学校で、落ち着いて学習できるようになった。
●曜日の感覚が分かってきた。
●前より食べられる食材が増えた。
●初めてのものも口に入れられる。
●宿題を毎日できるようになった。
63回治療後
先生の家庭訪問で、初めて問題ないと言われる。
友人と仲良く遊んでいる。
音のこだわりもなくなる。
(初診〜2年8ヶ月)
現在も、順調に学校生活を送っている。
まとめ
出産時の障害と気質の伝播で発症した高機能自閉症と考えられる症例。新経絡治療により、順調に回復した症例です。
治療事例2
10歳 男児 小4 高機能自閉症、AD/HD、てんかん
妊娠出産
子供の頭が大きく、出てこない。産道が狭いため、吸引分娩を行う。
気質伝播
主人の父親 多動で、じっとしていると死ぬと言う。言いたいことを言う。
父 不注意、多動がある。いつも貧乏ゆすり。子供時代、教室でいつも立ち歩く。
発育過程
1歳で、コンクリートの階段から落ちる。
2歳半、 遊具から落ち前歯を2本折る。
小3 板書の写しが遅く、手と目の協調運動障害を指摘、療育センターで、不注意優勢型のAD/HDと診断。
計算はできるが、物事を順序だて考えるのが苦手、角度の問題や文章問題が苦手。
算数は、ついて行けない、漢字記憶が苦手。
不眠のため、睡眠薬の内服。朝4~5時に目覚める。
新経絡治療の経過
治療前の指指試験:左右の指がずれる。
図3-18. 治療前の指指試験:左右の指がずれる。
1回治療後、不得意な計算が指を使わずに暗算でする。母親驚く。
図3-19. 1回治療後、不得意な計算を指を使わずに暗算でする。母親驚く。
2回治療で、リボン結びができた。母親驚く。
図3-20. 2回治療で、リボン結びができた。母親驚く。
12回治療後
母親の評価
●寝付きも良く、夜中に目を覚ますこともなくなる。
●靴を揃える。
●学校でも細かいことに気付く。(自分から連絡帳を書く)。
●明るく、元気になる。良く喋る。
●漢字を良く書け、覚えるのも早くなった。
●字も丁寧に書く。
表3-4. 発達検査の推移
 初診時1ヶ月後4ヶ月後5ヶ月後
感情    
 しなければならないことに注意力が弱い3111
運動(総評点)19点12点7点5点
 よくころぶ1110
 ひもを結ぶのが苦手3111
 服をたたむのが苦手3000
 縄跳びが苦手3311
 跳び箱が苦手3311
 球技が苦手3321
 食べこぼしがよくある3111

3点:大変当てはまる。 2点: かなり当てはまる。 1点:少し当てはまる。

まとめ
新経絡治療により、注意力、運動能力が顕著に改善した。新経絡治療は、運動性発達障害も顕著に改善することができます。
治療事例3
8歳 男児 高機能自閉症、AD/HD、二次障害
発育過程
小2、普通級+情緒学級に通う。
気質伝播あり。
療育センターで、AD/HD+自閉症スペクトラムと診断。
学校で、離席が目立ち、友達に授業中話しかけ、授業が困難なため、支援学級に行くが、毎日嫌がる。
友達と衝突すると暴力を振るい切れる。
毎週一人づつ、友達に怪我をさせる。感情がコントロールできず物に当り、泣き叫び暴れる。
2回/日、学校で癇癪を起す。収まるのに15分〜1時間かかる。
新経絡治療の経過
25回治療後
月に1回も喧嘩しない。感情のコントロールができる。
45回治療後
小3になり、授業中に1回も離席しない。
69回治療後
夏休みに友達が家に遊びに来る。経過良好。
 
小6、3ヶ月の勉強で、進学中学に合格する。
現在、中学3年、サッカーでも活躍している。
まとめ
新経絡治療は、発達障害の二次障害に対しても有効なことを示しています。