診療内容
発達障害
ウテメリンと自閉症
2009年、米国で2週間以上の切迫早産治療薬(β2交感神経作動薬:テルブタリン/ウテメリン)内服/注射による自閉症の発症が報告されました。1) 2021年、韓国で妊娠中にウテメリン(リトドリン)を使用した母体から生まれた子どもは、非ウテメリン母体に比して自閉スペクトラム症(ASD)を発症する割合が有意に高いと報告されました。4)
欧米では、2011年, 2013年、テルブタリン/ウテメリンの胎児の心筋壊死などの副作用により内服剤中止と注射の48/72時間以上の使用禁止措置が取られました。2) 3)
しかし、日本では、2025年現在も、ウテメリンが長期使用され、当院のウテメリンによる自閉症/発達障害の受診者が増加しています。
自閉症/発達障害の発症を避けるため、妊娠中のウテメリン使用を避け(/48時間以内の使用制限)、他の代替治療を推奨します。そして、既に発症した子供さんには、ウテメリン自閉症/発達障害の有効な治療である新経絡治療の早期の実施をお勧めします。
1. ウテメリン/テルブタリンによる自閉症の発症を示す論文
切迫早産治療薬による自閉症の発症を指摘した主な2つの論文の要約を示します。最初の論文は、米国のメリーランド州、ボルチモアにある全米トップレベルのジョンズ・ホプキンス大学医学部の産婦人科医師 Frank R. Witterらによる最初のウテメリン/テルブタリンによる自閉症の発症を示す重要な論文です。この論文は、欧米のウテメリン/テルブタリン中止と厳格な規制の引金になった論文です。論文の形式は、ウテメリン/テルブタリンによる自閉症の発症に関するレビュー論文です。1)
2つ目の論文は、ソウルにある韓国トップレベルの成均館大学校(ソンギュングァン大學、Sungkyunkwan University)医学部、サムスン医療センターの産婦人科医師のJungsoo Chaeらにより、全国規模のデータベースで妊娠中のウテメリンと自閉症の関連を明らかにした論文です。77万人の妊婦の方を対象にした、妊娠時のウテメリン投与(静脈投与)により非投与群に比して自閉症の発症が明らかに高まることを報告した疫学論文です。4)ウテメリンによる自閉症の発症を示した大規模疫学調査の論文です。
●2009年に米国ジョンズ・ホプキンス大の産婦人科医Frank R. Witterら 1) により、β2-アドレナリン作動薬(テルブタリン、リトドリン(ウテメリン)など)の2週間以上の投与により、自閉症発症リスクが高まることが報告された。
文献 Frank R. Witterら:子宮内β2交感神経作動薬の曝露と神経生理学的有害転帰および行動への有害転帰、American Journal of Obstetrics & Gynecology, December 2009, 553-559, 2009.
要約
胎児の発達の重要な時期におけるβ2アドレナリン受容体の過剰刺激は、交感神経性緊張と副交感神経性緊張の均衡に永続的変化(注:交感神経優位への移行)をもたらす可能性がある。
これは、β2アドレナリン作動薬が機能的催奇形性と行動的催奇形性を誘発する生物学的に見て妥当な機序である。この機序によって、胎児期のβ2アドレナリン受容体の過剰刺激と出生後の小児の自閉症スペクトラム障害、精神障害、認知機能障害、運動機能障害、学業不振、血圧の変化との関連を説明することができる。
β2アドレナリン作動薬の使用は、代替薬剤が有効でない、またはそのような薬剤が利用できず、治療しなかった場合に疾患が母親および胎児に及ぼすリスクがβ2アドレナリン作動薬のリスクよりも上回る時に、実証された適応に限定すべきである。
参考:催奇形性(teratogenesis):妊娠中の女性を介して、胎児の形態形成障害(奇形)を起こすことを催奇形性といい、その原因物質を催奇物質(teratogen)という。最近は、胎児毒性fetal toxicantと呼ばれることもある。
この論文は、ウテメリン/テルブタリンなどのβ2アドレナリン作動薬と自閉症の関連論文をレビューして、妊娠中のテルブタリン/ウテメリンなどの投薬が、生れてきた小児の自閉症のリスクになることを初めて明らかにしたものです。そして、妊娠中のテルブタリン/ウテメリンの投与を中止/制限すべきことを勧告しています。
我が国でも、この論文は、すでに2013年の段階で、元名古屋大学医学部産婦人科教授の水谷栄彦医師により取り上げられ3)(図1)、β2アドレナリン作動薬の自閉症リスクが警告されています。またこの作動薬と若年者の自殺リスクの増加の関連も指摘され、追跡調査の必要性を勧告されています。
●2021年に、成均館大学校(ソンギュングァン大學、Sungkyunkwan University)医学部、サムスン医療センターの産婦人科医師のJungsoo Chaeらにより、全国規模のデータベースで妊娠中のウテメリンと自閉症の関連を明らかにした論文です。77万人の妊婦の方を対象にした、妊娠時のウテメリン投与により非投与群に比して自閉症の発症が明らかに高まることを報告した疫学論文です。
Jungsoo Chae, Geum Joon Cho, MinJeong Oh, KeonVin Park, Sung Won Han, SukJoo Choi1, Sooyoung Oh & CheongRae Roh1: In utero exposure to ritodrine during pregnancy and risk of autism in their offspring
until 8 years of age(妊娠中にリトドリン(ウテメリン)に曝露した母親の子供における8歳までの自閉症のリスク)、Sci Rep.?2021 Jan 13;11(1):1146.
要約
ベータ-2アドレナリン受容体(B2AR)アゴニストは、喘息の治療薬や妊娠中の子宮収縮抑制剤として使用されています。最近、これらの薬剤が後代における自閉症と関連していることが報告されています。しかし、B2ARアゴニストの一般的な種類であり、子宮収縮抑制剤としてのみ使用されるリトドリンと自閉症との具体的な関連性は、全国規模のデータベースで確認されたことはありません。したがって、私たちは全国規模のデータベースを用いて、リトドリンの胎内曝露と子孫の自閉症リスクとの関連性を調査することを目的としました。この人口ベースのコホート研究は、韓国国民健康保険請求データベースと乳幼児健康検診プログラムデータベースを統合して実施されました。これらのデータベースには、2007年1月から2008年12月の間に韓国で単胎出産したすべての女性が含まれていました。総計770,016人の母親のうち、30,959人(4.02%)が妊娠中にリトドリンに曝露し、全体の子どものうち5,583人(0.73%)が8歳までに自閉症と診断されました。当分析によると、8歳までの自閉症の累積発生率は、リトドリン曝露群で1.37%、非曝露群で0.70%でした(p < 0.05、ログランク検定)。コックス比例ハザード分析により、早産時のリトドリン使用は自閉症のリスクの有意の上昇と関連していました[調整ハザード比:1.23、95% CI 1.04?1.47]。これは、母年齢、分娩回数、帝王切開、早産、ステロイド使用、出生体重、性別、妊娠高血圧症候群などの交絡因子を調整した後でも有意でした。したがって、胎内でのリトドリン曝露は、その子孫における自閉症のリスク増加と関連していました。
2つの論文は、妊娠中のウテメリン(リトドリン)/テルブタリンの投与が生まれる子供の自閉症の発症の明確なリスク(薬害)であることを明らかに示しています。妊娠中のウテメリン投薬は中止すべきであることを示しています。
2. なぜ、妊娠中の薬物投与を避けなければならないか?
妊娠中の薬物投与を避けることは、胎児への悪影響を避けるための重要な医学的原則です。
その警告を与えた事件が、妊娠中に服用した催眠薬でアザラシ奇形を生じた「サリドマイド事件」です。以下に、事件の概要を述べます。
■サリドマイド事件
サリドマイドは、ドイツのグリュネンタール社が開発した催眠薬で、1957年、コンテルガンConterganの商品名で市販された。5)
日本でも開発・製造され、1958年に「安全な睡眠薬として発売されたが、催奇形性があり妊娠初期の妊婦の服用により四肢欠損(アザラシ奇形)などの異常を持つ新生児が多数生じた。」
戦後の薬害の原点となる事件となり、1962年に販売停止になった。
約9ヶ月ずらすと、販売量と奇形児出生数のカーブはほぼ重なる。
これは、感受性期と出生までの期間に相当する。6)
1958年 会社の医師の「産後の婦人」の投与で副作用が認められないという報告を拡大して妊婦にも使用できると発表して販売されました。
サリドマイドは、グルタミン酸の化合物で、1954年、ペプチド合成研究上の副産物としてえられた。構造が催眠薬のドリデンに類似しているため、催眠薬として発売された。副作用の動物実験がズサンであることが後に判明した。
日本では睡眠薬イソミン(1958年発売)や胃腸薬プロバンM(1960年発売)として販売されました。
広告には、「クセにならない催眠薬」として依存性のないことを謳っています。
■サリドマイドのアザラシ奇形の機序
2010年に半田宏(東京工大)と小椋(こむく)利彦(東北大)らにより、サリドマイドがプロテアーゼ(蛋白質分解酵素)の一つ、E3ユビキチンリガーゼを構成するセレブロンというタンパク質と結合して、その働きを阻害し、その結果、手足の形成を促す増殖因子FGF8や転写因子SALL4、PLZFなどが分解され、胎児にアザラシ奇形を引き起こすことが解明されました。7)
アザラシ奇形の機序の解明まで実に53年を要しています。ほとんどの薬物の胎児に対する影響は、判明していません。そのため、避けるほうが賢明です。
■妊娠中に薬物を避ける理由
図5は、器官別の受精後の胎児の催奇形物質に対する臨界期(過敏期の意味)を示しています。 受精後8週間の時期は、胎児の器官形成期で、薬剤の影響を受けやすい。この最も奇形発生頻度の高い時期を「臨界期」といいます。人体の各器官の臨界期は2~12週間の間です。6)従って、この期間の妊婦への薬物の投与は原則避けるべきです。これが、妊娠中は、薬物投与を避ける原則の根拠です。
■ウテメリンは、わが国で唯一、妊婦の方に長期使用されている薬剤です
多くのお母さん方は、サリドマイド事件などの影響で、妊娠中の薬、特に、合成化学薬剤の使用を避けています。
しかし、ウテメリンだけは、妊娠中に長期使用されています。ウテメリンは、副作用のため、欧米では長期使用が禁止されています。
我が国では、現在も長期使用しています。ここに、ウテメリンの重大な問題があります。
〇は、つわりの時期を示す。8)9)
3. ウテメリンはどんな薬か?
ウテメリンは商品名で、薬品名は、リトドリン塩酸塩と言います。子宮収縮抑制薬で流早産の予防に使われてきました。その作用機序からβ2-アドレナリン(交感神経)作動薬と言います。
米国で流早産予防に使われていたテルブタリンは、テルブタリン硫酸塩と言い、同じβ2-アドレナリン作動薬です。
β2受容体は、表1、図7に示すように、アドレナリンに反応する受容体で、平滑筋(気管・子宮・血管・腸管)の表面に存在し、平滑筋を弛緩させます。ウテメリンもこのアドレナリンと同様に、β2受容体に結合して、平滑筋を弛緩させます。
以下に、ウテメリンの作用機序について述べます。
■アドレナリン
副腎髄質から放出されるホルモンで、強力な交感神経αおよびβ受容体刺激作用を持つ興奮性ホルモンです。10)
α受容体を介して末梢血管収縮作用を、β1受容体を介して心筋収縮増強作用と心拍数上昇作用を、また子宮体平滑筋のβ2受容体と結合して子宮体筋を弛緩させます。11)
| アドレナリン受容体 | 興奮ホルモンのアドレナリン/ノルアドレナリンにより活性化される受容体のこと。 |
| アドレナリン受容体の存在箇所 | 心筋、平滑筋(血管、内臓筋肉、子宮体筋肉)、腦、脂肪細胞の細胞膜表面に存在(/細胞質、核)する。 |
| 受容体の種類 | α(α1、α2)、β(β1、β2、β3)がある。 臓器により、受容体の種類の割合が違う。 |
| 種類による作用の違い | α1:血管収縮作用(血圧上昇)瞳孔散大 α2:血小板凝集作用、脂肪分解抑制 β1:心筋収縮の亢進、レニン分泌水分貯留 β2:存在部位 気管支平滑筋、子宮などの平滑筋、血管平滑筋 気管支平滑筋拡張(抗喘息作用) 子宮体平滑筋の弛緩作用 血管拡張による顔面紅潮、頭痛 肝グリコーゲン分解・血糖上昇 β3:脂肪細胞の脂肪分解促進 |
■ウテメリン
アドレナリンと同じ作用を持つ薬剤で、平滑筋のβ2受容体と選択的に結合して、子宮体筋を弛緩させ、流早産の予防作用を持つとして使用されています。しかし、実態は、予防作用は弱く、副作用が強いことが判明しています。また、選択的β2受容体刺激薬として販売されていますが、実際にはそれほど選択性が強くなく、β1の心筋収縮作用など心血管系などへの副作用も強いとされています。12)
このウテメリンのβ1受容体刺激作用が、胎児の心筋壊死や自閉症の発症の引き金になっていると考えられます。
(錠剤:15㎎(3)/日、注射薬(点滴):50㎎/500ml5%ブドウ糖注射液、50㎍~150㎍/分で点滴)
ウテメリンは、子宮体筋表面のβ2受容体に結合して、子宮体筋を弛緩させる作用を示します。しかし、欧米の実験では、子宮弛緩作用は弱く、効果は、48/72時間に限られ、長期効果は否定されています。
■ウテメリンの副作用
| 母体への影響 | ①心血管系:頻脈、不整脈、心不全、肺水腫、心筋症 ②代謝系:高インスリン血症、高血糖、低カリウム血症、低カルシウム血症、横紋筋融解(CPK上昇) ③血液系:顆粒球減少 ④そのほか:手指の振戦、動悸、顔面紅潮、頭痛、発汗、嘔気嘔吐 |
| 胎児への影響 | ①心血管系:頻脈、不整脈、心筋肥厚、心筋虚血 ②代謝系:高インスリン血症、低血糖、高カルシウム血症、低カルシウム血症 ③消化管系:腸管麻痺 |
1)母体の副作用
表2は、ウテメリンの副作用を示したものです。母体の副作用として、最も重大なものは心不全と肺水腫です。輸液の過量投与、電解質輸液に使用、ステロイド薬や硫酸マグネシウムとの併用、多胎妊娠、妊娠高血圧症候群や心疾患の合併時に出現しやすいとされています。12)その他の副作用として動悸、手指の振戦などがあります。
日本周産期・新生児医学会の副作用調査では、ウテメリン投与273人中、51人で有害事象があり、肝機能障害43例、横紋筋融解症30例、肺水腫・顆粒球減少症がそれぞれ25例と報告されています。これらは、長期投与が主流の日本独特の副作用と指摘されています。12)
2)胎児・新生児への副作用
ウテメリンは、胎盤を容易に通過し、母児間の血中濃度はほぼ等しくなるため、胎児の臓器のβ受容体を刺激し、母体と同じような副作用を起こします。頻脈、心拍出量増加、心筋肥厚、出生後の低カルシウム血症や、高インスリン血症に伴う低血糖、腸管麻痺などです。
特に深刻な副作用は、胎児心筋への作用です。ウテメリン1日30㎎経口投与された(30~180日)妊婦の方から生まれた新生児21人の調査では、6人に心虚血を示唆する心電図変化が数週間続いたと報告。対照群には認めらなかった。13)この一過性の心虚血性変化は、子羊胎児を用いた実験で、β交感神経刺激薬が、低酸素血症と同様の心電図変化を引き起こすことが実証されている14)ことから、ウテメリンの胎児心臓の酸素消費量の増加により引き起こされることが示唆されます。
喘息治療薬・β交感神経刺激薬のイソクスプリンを使用(24時間~8週間)した妊婦の方から生れ、新生児死亡で剖検された25人では、心内膜下局所壊死(3例)心筋細胞のびまん性脂肪変性(3例)、右室壁の心内膜下層の核DNAの倍数化(核多倍体化)(14例)の病変が報告された。β交感神経刺激薬は、ATP等の過剰消費を引き起こし、局所的な心筋壊死を引き起こす。多倍体細胞核は、β交感神経刺激薬の刺激で、心臓機能の全体的な増加によって引き起こされることが示唆されます。15)
また、子宮内のウテメリン暴露後に、児に心中隔肥厚が起こることが報告されています。41人の新生児にMモード法心エコーで対照群に比して、有意に不均衡中隔肥大が認められています。16)
これらの報告は、ウテメリンによる胎児の心機能への要求増加による虚血性心疾患の副作用の機序を支持しています。また、母体と同じように、心室頻拍、心房細動、などの症例が多く報告されています。
4. ウテメリンの切迫早産治療薬への使用開始と長期使用禁止の経過
1972年からウテメリンと同じ薬効のテルブタリンが、子宮収縮抑制作用から切迫早産に使用されてきました。日本でも1970年代中頃から切迫早産に使用されてきました。
1986年 1歳未満の心臓移植患者が増加する。(図10)
1991年 アメリカ産婦人科医が妊娠中のテルブタリン注射の長期使用(12週)で、赤ちゃんに心筋壊死が起こると報告。17)
2009年に米国ジョンズ・ホプキンス大の産婦人科医Frank R. Witterらにより、β2-アドレナリン作動薬(テルブタリン、リトドリン(ウテメリン)など)の2週間以上の投与により、自閉症発症リスクが高まることが報告。1)
2011年に、米国FDA(食品薬品局)、テルブタリンが胎児に心筋壊死を起こすことから、72時間以上の使用を禁止。代替に天然型黄体ホルモン(マケーナ)を切迫早産の予防に承認。2)3)
2013年、EMA(欧州医薬品庁)は、経口リトドリン(ウテメリン)を中止、注射のみ48時間以内の使用に制限。
2021年、韓国のChae 医師らが、韓国の約77万人の出生データを対象にした調査で、妊娠中にウテメリン(リトドリン)を使用した母体から生まれた子どもは、自閉スペクトラム症(ASD)を発症する割合が有意に高かったと報告。4)
このように、米国、EUでは、テルブタリン、ウテメリンの経口剤は禁止、注射は48/72時間以上の使用が禁止されています。
→1歳未満の心臓移植件数が1986年から増え始め1991年には1/3を占める。
テルブタリンの影響が示唆されます。3)
■日本でのウテメリン使用3)
1970年代中頃 β交感神経刺激剤を米国に習い、切迫流・早産に使用開始。
1986年 国内の中堅製薬会社が、オランダの製薬会社と提携して、ウテメリンの開発に着手、厚労省はリトドリン(ウテメリン)を「緊急に治療を要する切迫早産」への使用を承認。
1994年 切迫流産予防への使用も承認。
我国では、現在もウテメリンの経口剤および注射が切迫早産等に長期間使用されています。当院でも、ウテメリンを内服/注射した発達障害児の受診がすでに106名を超えています。この人数から、全国的には、ウテメリンを内服/注射した自閉症/発達障害の発症は、相当数に上ると考えられ、早急に欧米なみの行政による明確なウテメリンの使用規制が必要と考えます。
参考
■精度の高い疫学調査のコクランレビューの検証でリトドリンの有効性が制限される。18)
リトドリン経口剤は、「妊娠34週未満の早産」に有意な効果がない。
リトドリン注射薬は、48時間の分娩遅延の有効性が認められたが、それ以上の期間の有効性の根拠がない。
また、複数の有害作用が認められ。(母体の胸痛、呼吸困難、動悸、頭痛、低カリウム血症、高血糖症、悪心、嘔吐、鼻閉:胎児頻脈)
これらの結果より、EUは、経口剤の使用禁止、注射薬の48時間以内の使用制限を勧告しました。
このように、欧米では、テルブタリン、リトドリン(ウテメリン)を、その心筋壊死などの強い副作用と、流早産予防効果が、48~72時間の短時間しか認められないことを根拠として、72時間以上の長期使用を禁止しました。
■ヒドロキシプロゲステロン
戦前、独のシェーリングAGが開発した天然型黄体ホルモン。
女性ホルモン製剤、子宮用剤、筋注 125㎎ 1ml、1週1回 65~125㎎筋注
適応: 切迫流早産、習慣性早産、無月経、機能性子宮出血、黄体機能不全による不妊症
禁忌: 重篤な肝障害、肝疾患、流早産を除く妊婦、妊娠ヘルペス既往歴
副作用:発疹、肝機能異常、浮腫、頭痛、倦怠感など
水谷栄彦3)・名古屋大学医学部産婦人科の名誉教授は、天然型黄体ホルモン療法をマグネシウム製剤やウテメリンを長期使用するに比べて、はるかに安全であると推奨しています。
■ウテメリンの副作用からその中止/使用制限を勧告する意見
宮城県立こども病院の産科医長の室月淳医師は、ウテメリンの副作用から、その使用の中止を勧告しています。その著書の中で、以下のように述べています。「日本で当たり前のように行われているリトドリン(注:ウテメリン)の持続投与は欧米ではありえません。妊婦さんにとっては不必要で、場合によっては有害な治療です。」
室月医師は、この本の中(p56―76)で、要約すると「2000年過ぎ頃から、リトドリンの母体への心血管系合併症や肺水腫などの重篤な副作用の報告から、リトドリン長期投与の廃止に取り組んでいる。そして、2010年に赴任した宮城県立こども病院では、リトドリンをなるべく使わない方針で、2016年からまったく使わなくなった。」と述べられています。室月医師は、リトドリン長期投与を避ける根拠として、(p62)「リトドリンの妊娠延長効果は、せいぜい48時間までであることと、投与によっても周産死亡や呼吸促拍症候群、脳室内出血といった児の予後は変わらない」ことをあげています。
そして、「リトドリンの投与は、48時間以内に中止すべきです。・・その延長した48時間で高次周産期期センターに搬送することと、母体へのステロイド筋注をおこなう・・リトドリン持続点滴による妊娠延長による予後は変わりませんが、母体ステロイド投与ができれば児の予後(呼吸促拍症候群、脳室内出血、死亡率の減少など)は有意に改善します。ステロイド投与の効果が最も高いのは(リトドリン)投与終了後の24時間~7日までなので、数日以内の分娩が予想される場合はぜひ行うべきであり・・」としています。
また、室月医師は、リトドリンの代替治療として、オキシトシン受容体拮抗薬アトシバンやレトシバンについても以下のように述べています。19)
「アトシバンの有効性は、β刺激薬やカルシウムブロッカーとほぼ同様であるが、副作用がほとんどないのが特徴です。アトシバンやレトシバンは、下垂体から分泌され子宮筋の収縮を起こすオキシトシンの受容体をブロックすることで早産を予防する薬です。アトシバンは、1994年に早産防止薬として開発され、2000年にEUで承認され、現在では米国や日本を除く世界67か国で使用されている。」としています。また、フランスの疫学調査でも、アトシバンやカルシウム拮抗剤(ニフェジピン)の投与が、早産児の死亡と重症IVH(脳室内出血)のリスク減少に関連することが示唆されています。20)我が国でも、こうした副作用に少ない代替治療を導入を検討すべきであると考えます。
また、昭和大学医学部 産婦人科学講座 関沢明彦教授(当時)は、5.切迫早産の治療についての最近の話題:長期の子宮収縮薬投与についての産婦人科ゼミナールで、リトドリンの長期投与について、以下のように述べています。21)
①欧米では、リトドリンの点滴投与は、48時間に限定されている。リトドリン内服は、その副作用から中止が勧告されている。
②わが国では、注射および内服ともリトドリンの長期投与が行われている。
③昭和大学病院では2003年頃より外来でのリトドリン内服は中止している。そして2014年1月以降、切迫早産の診断を厳格化し、妊娠25週以降は、リトドリンの点滴を48時間に限定している。
④リトドリンの点滴規制により、適用患者数は64人から15人に、使用注射アンプル数も4654から514に激減した。
⑤リトドリン点滴規制前後で、平均分娩週数、37週未満の早産数、28週未満の早産数などに有意な変化は認められない。
⑥2015年の日本周産期・新生児医学会のリトドリンの調査では、273人のうち51例で有害事象を認め、その内容は、肝機能障害が43例、横紋筋融解症が30例、肺水腫・顆粒球減少症がそれぞれ25例などであり、一般産科医の認識以上に有害事象が高頻度に発生している。
⑦リトドリン内服やリトドリン注射の長期投与は、再検討する段階に来ている。
と述べています。
このように、昭和大学病院では、2013年以降、欧米の基準に準じて、25週以降は48時間に限定した子宮収縮抑制薬を投与するプロトコールを採用していることが明記され、リトドリンの長期投与を見直すように助言されています。また、リトドリンの48時間への制限によって、平均分娩週数、37週未満の早産数、28週未満の早産数、NICU入院数に有意の差がなく、周産期への悪影響がないことを示していることも重要です。
(関沢教授の周産期講座 – 日本産婦人科医会より。)
このように、ウテメリン(リトドリン)の副作用と有効性の限界から、我が国のウテメリンの長期投与の問題点が指摘され、中止/規制の意見が述べられています。
5. 流早産の原因と治療方法・・軽減勤務や休養が大切
流産: 妊娠22週未満の妊娠中絶をいう。(1993年、ICD-10修正)。これは早期流産(妊娠12週未満)と後期流産(妊娠12週~22週未満)に分ける。全妊娠の10~15%を占める。
流産の原因として胎児(胎芽)の異常、母体の異常、両者の適合性の異常がある。胎児側の異常としては染色体異常が主たる原因である。
妊娠12週以降の切迫流産の場合は、子宮収縮抑制薬による治療または安静療法を行う。(南山堂医学大辞典)
このように、流早産予防には、安静療法があることが述べられています。
これまでの就労と流早産の研究では、就労女性にその割合が高いことが指摘されています。ヨーロッパの大規模調査では,早産のリスクは長時間労働(週42時間以上勤務)や作業形態(1日6時間以上立位作業)による影響により増大すると報告されてい ます。22) 宮内は、専業主婦に比して就労女性では自然流産(0.52%: 1.08%)と稽留流産(3.33%: 5.36%) とが高率に発生していることを報告しています。23)
このため、仕事の負担が強い場合は、それを避けることが大切だと思われます。ウテメリンは、自閉症のリスクや心筋梗塞などの副作用が強く、長期効果は根拠がなく、切迫早産には、就労中の女性では、長時間勤務や長時間立位作業など仕事上の負担を避ける「軽減勤務や休養」を基本にすべきであると考えます。
■妊娠時の安静が保てない理由
女性の就労率が高くなり、看護師、保母などの職種では、休養を取りにくい状況があります。
ウテメリン服用者の職種を一部を集計すると以下の様でした。
看護師3、保育士1、介護士1、医師2、教師1、歯科衛生士1、診療管理士1、その他2人の計12人でした。
約1割は、医師、看護師、保育士などの休養が取りにくい職種に就業しており、ウテメリンに頼る状態が示唆されました。
■妊娠時の安静の保障対策
男女雇用機会均等法(昭和47年、昭和60年改訂)により、健康審査の機会の保障と医師が診断した場合、勤務の軽減、休業等の措置が取られます。24)25)
これを活用して、必要な安静措置をとります。
事業主の義務
(1)妊娠中/出産後の女性労働者が健康診査を受ける時間確保
(2)医師による勤務時間変更措置の実施など必要な措置が講じられない場合
①是正指導
②企業名の公表
③紛争の調停などの紛争解決援助の申し出がある。
6. 当院のウテメリン服用者の子供の発達障害の現状
以下では、当院におけるウテメリン服用者の子供の発達障害の現状について述べます。
図12は、当院の2009年~2025年5月8日までの、発達障害受診児/者の年次別のウテメリン内服/注射比(以下、内服比と言う)の推移を示したものです。 受診者全体に占める平均内服比は、13.7%です。内服率は徐々に増加する傾向を示しています。2020年以降の平均内服率は、17.9%であり、2009年~2019年の12.7%に比して、有意差は(χ二乗検定p<0.054)ありませんが、増加する傾向にあります。
我が国の早産率(妊娠36週までの出産率)は、1980年が4.1%、1990年が4.5%、2000年が5.4%、2010年が5.7%、2010以降は、5.7~5.8%と横ばいと報告されています。26)日本における切迫早産率の頻度(2001~2010年)は、平均14.2%(13.0~16.1%)と報告されています。25)27)全妊婦の方の15%程度が切迫早産の診断を受け、その半数位が入院治療となっていると推定されています。
これから推定する、少なくとも全妊婦の方の7%くらいの人が、ウテメリンを内服/注射している可能性があります。これらの結果より、発達障害受診者の1/8人~1/ 6人がウテメリンを内服し、発達障害の発症に大きな影響を与えていることを示しています。
表3は、ウテメリン服用者と非服用者の発達障害の病型の比較をしたものです。
ウテメリン服用者の子供では、高機能自閉症が最も多く、37.6%、次いで自閉症が30.1%であり、合計67.8%と多くを占めていました。
一方、非服用者の子供では、高機能自閉症は、27.8%、自閉症は20.0%で、合計47.8%であり、ウテメリン群で、自閉症スペクトラムの割合が多い傾向を示しました。統計検定で、自閉症、自閉症+高機能自閉症、てんかんで有意差を認めました。
このことから、ウテメリン服用者の子供では、非服用者の子供に比して、自閉症スペクトラムの頻度が高く、ウテメリンの自閉症発症リスクは否定されませんでした。
表3. ウテメリン服用者と非服用者の子供の発達障害の病型の比較
**p<0.01, ウテメリン服用者に自閉症、高機能自閉症+自閉症(注:両者を併せて検定を示す)が有意に多い。
非服用者に、てんかんが有意に多い。(χ二乗検定)
| 病名 | 男 | 女 | ||
|---|---|---|---|---|
| 人数 | % | 人数 | % | 総数 | 74 | 19 |
| 1. 学習障害 | 3 | 4.1 | 4* | 21.1 |
| 2. 高機能自閉症 | 31 | 41.9 | 4 | 21.1 |
| 3. ADHD | 6 | 8.1 | 2 | 10.5 |
| 4. 自閉症 | 22 | 29.7 | 6 | 31.6 |
| 5. 知的障害 | 3 | 4.1 | 0 | 0.0 |
| 6. てんかん | 7 | 9.5 | 1 | 5.3 |
| 7. その他 | 2 | 2.7 | 2 | 10.5 |
*p<0.05, 学習障害に有意差を認める。(χ二乗検定)
表4は、ウテメリン服用者の子供の男女別の病型を示したものです。まず、ウテメリン服用者の子供の男女比には、大きな差が認められます。男子が80%を占め、女子の5倍と高頻度でした。男女別の早産率の統計がないため、詳細は不明であるが、男子の方が発達障害に罹患しやすい、または、ウテメリンの影響を受けやすいことを意味します。
次に、病型を比較すると女子に比して、男子では、高機能自閉症の割合が高く、女性の2倍程度であったが、有意差はなかった。逆に、女性では、比較的軽度の発達障害である学習障害の比率が高く、男性の5倍程度あり、有意差を認めました。
参考 日本での早産率は5-7%(切迫早産|一般の皆様へ|徳島大学病院産婦人科 (tokudai-sanfujinka.jp)
| ウテメリン服用期間(W) | 人数 | (%) | 発達障害スコア | |
|---|---|---|---|---|
| 平均 | SD | |||
| 総数 | 93 | 100% | ||
| 0 ~ 1.9 | 15 | 16.1 | 40.5 | 12.7 |
| 2 ~ 3.9 | 10 | 10.8 | 24 | 20.5 |
| 4 ~ 5.9 | 17 | 18.3 | 23.9 | 20.1 |
| 6 ~ 9.9 | 20 | 21.5 | 36.1 | 21.3 |
| 10 ~ 13.9 | 14 | 15.1 | 43.2 | 4.3 |
| 14 ~ 38 | 17 | 18.3 | 42.7 | 15.9 |
表5と図13は、ウテメリン服用期間と発達障害スコアの関係を示したものです。発達障害スコアは、当院で作成した項目で構成された評価表から計算したスコアです。
1)発達項目 言葉など発達の7項目、2)感情項目 気分が不安定など3項目、3)運動項目 よくころぶなど7項目、4)聞く項目 聞き取るのが苦手など2項目、5)読む項目 文字が読めないなど4項目、6)書く項目 文字を書くなど3項目、7)算数項目 集中が続かないなど4項目の合計30項目について、非常に当てはまる3点、かなり当てはまる2点、少し当てはまる1点、当てはまらない0点として、合計評点で評価する。0~90点に分布し、スコアの高いものほど、発達障害が重度であると評価します。
まず、服用期間の分布をみると、2W以内の短期間の投与の者は、16.1%に過ぎず、83.9%は、2週間を超える長期投与をしていた。これは、切迫時だけでなく、予防投薬として長期に投薬が行われていることを示しています。
Witterらは、β2アドレナリン作動薬の内服が2週間を超えると有意に自閉症の頻度が高まるとしています。従って、今回の対象者の多くは、自閉症の発症リスクが高い2週間以上の内服者であると言えます。
次に、ウテメリン投与期間と発達障害スコアをみると。0-1.9Wが高く、一旦下がって、6週間から上昇し、10週間まで上昇し、ピークに達します。これは何を示しているのでしょうか。
以下に0~1.9Wの事例で発達障害スコアの点数が高い人の内容を検討します。
表6は、ウテメリン内服期間別の緊急帝王切開、重度てんかん、強い気質伝播、および1500g以下の未熟児の割合を比較したものである。
0~1.9Wの群では、緊急帝王切開4名(26.6%)と高いこと、重度てんかんの合併4名(26.6%)が高く、高リスク群であったことが影響したと考えられる。てんかんは、ウエストてんかん、側頭葉てんかん、乳児重症ミオクロニーてんかん、重症てんかんなど症候性てんかんであった。
また、1000g未満の超未熟児1名、1500g以下の極小未熟児1名であった。また、強い気質伝播があるもの2名を認めた。
これに対して、2W以降の上記の項目の割合は、緊急帝王切開3.8%、重度てんかん、7.7%、強い気質伝播1.3%、1500g以下の未熟児2.6%と明らかに低い結果であった。
| ウテメリン服用期間(W) | N | 帝王切開(緊急) | てんかん(重度) | 気質伝播++ | 1500g≦ |
|---|---|---|---|---|---|
| 0 ~ 1.9 | 15 | 4(26.6) | 4(26.6) | 2(13.3) | 2(13.3) |
| 2 ~ 33.5 計 | 78 | 3(3.8) | 6(7.7) | 1(1.3) | 2(2.6) |
| 2 ~ 3.9 | 10 | 0(-) | 1(10.0) | 0(-) | 1(10.0) |
| 4 ~ 5.9 | 17 | 0(-) | 3(17.6) | 0(-) | 1(5.9) |
| 6 ~ 9.9 | 20 | 1(5.0) | 1(5.0) | 0(-) | 0(-) |
| 10 ~ 13.9 | 14 | 1(7.1) | 0(-) | 0(-) | 0(-) |
| 14 ~ 33.5 | 17 | 1(5.9) | 1(5.9) | 1(5.9) | 0(-) |
このように、0~1.9W未満の群では、ウテメリン以外の発達障害のリスク因子が集積しているため、発達障害スコアが高い結果と考えられます。
次に、上記の4つの因子を有するものに新生児仮死の1名の加えた9名について発達障害スコアを出すと53.1±11.5と高い水準であった。スコア評価できなかった重度てんかん1名を除く5名では、スコアは、17.8±8.9であり、2W~3.9Wの群より低いスコアであった。
図14は、ウテメリン内服者から、ウテメリン以外の発達障害の原因となると考えられる因子:重度てんかん、緊急帝王切開、37週未満の早産、1500g以下の未熟児、双胎児、強い気質伝播の症例を除いて集計した図です。内服期間と発達障害スコアを見ると、内服6.0~9.9週までは、発達障害スコアが徐々に上昇し、6.0週以降では、ピークを迎える傾向を示した。
2週間未満と有意差を認めるのは、10~13.9週および14~38週であった。これをみると、ウテメリン内服期間と発達障害の間には、6週間までは、ウテメリン服用期間が長い程、発達障害評点が高くなる傾向を示しています。
| ウテメリン 投与期間(週) |
n | 発達障害 評点平均 |
評点SD | 平均年齢 | 年齢SD | 男/女比 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 総数 | 56 | 34.3 | 18.9 | 7.7 | 4.6 | 43/13 |
| 0 ~ 1.9 | 4 | 17.5 | 10.2 | 8.3 | 8.1 | 3対1 |
| 2.0 ~ 3.9 | 7 | 25.0 | 20.7 | 8.7 | 5.3 | 6対1 |
| 4 ~ 5.9 | 9 | 32.0 | 14.7 | 6.9 | 3.8 | 8対1 |
| 6.0 ~ 9.9 | 13 | 38.0 | 23.9 | 6.8 | 3.2 | 10対3 |
| 10 ~ 13.9** | 10 | 36.4 | 10.2 | 7.6 | 2.5 | 7対3 |
| 14 ~ 38* | 13 | 40.8 | 19.6 | 8.7 | 6.2 | 9対4 |
今回の結果から、6週を超えるウテメリン内服者の子供では、発達障害が強い傾向が認められました。
ウテメリン内服期間と発達障害訴えの相関があることが示唆しています。今回の結果から、ウテメリンの発達障害リスクは否定されず、長期投与を避けることが必要です。
7. ウテメリンによる発達障害の治療症例
以下に、ウテメリンによると思われる発達障害児の新経絡治療例を示します。
症例1
6歳 男児 高機能自閉症、ADHD
- 家族歴
- 妹2歳:ウテメリンを妊娠20W-40Wまで約20 W内服している。緊張と弛緩のずれが大きい。
- 妊娠・出産の経過
- 6ヶ月で逆子になって、腹部がはり気味ということで、妊娠中期6ヶ月から終わり頃までウテメリンを内服した。(約20W)逆子は、医者が、「ぐりっ」と回して修復した。腹は時々張る程度であった。妊娠中は仕事をしていない。40Wになっても陣痛がないので、41Wに1日位,陣痛促進剤を点滴した。点滴を4-5回追加した。その後、レベル10に陣痛が強くなる。頭が大きいので、医師が破水させ、その潤滑で出そうとしたが、頭がひっかかりなかなかでなかった。翌朝8時に出産した。出産時、直ぐに泣く。頭の変形があり、縦長であった。
- 出生体重
- 3482g, 出産後すぐに抱く。3ヶ月まで、母乳が少なく、混合栄養だった。混合ミルクはあまり飲まないので、3ヶ月後からは、母乳のみで育てた。
- 発育経過
- 歩行開始 1歳4ヶ月 始語は、遅かった。
アイコンタクト あり、抱かれる 好む、一人遊び あり、ごっこ遊び あり、母親の後追い あり
多動 あり、気質の伝播 なし
頭部外傷:1歳10ヶ月,アパートの2Fに住んでいて、階段の10段から飛び降りようとして、2-3段下の階段の角で顔面を打ち、歯を脱臼する。外科から歯科へ受診し治療をした。
2歳半で保育所に入所した際、噛みつきなどの攻撃性が多々あった。今は少なくなった。
言葉が遅かった。気になる機械、車などの前で、ずっと動かずに見ていた。指示が通りにくい。
3歳 AD/HDと診断、療育で親子教室に通う
2015 10 6 医療機関で広汎性発達障害、AD/HDの診断を受ける。
小学1年生 算数、国語は、特別支援学級表8. 新版K式発達検査2001の結果 発達指数(DQ) 90 発達年齢(DA) 5歳2ヶ月 (実5歳9ヶ月) 姿勢・運動領域 認知・適応領域 91 言語・社会領域 90 - 気質伝播
- なし。
W19.8kg、H110cm - 困りごと
- 集団での指示が通らない。会話が飛ぶ。昼間の尿漏れがある。他の事に集中している時、トイレは後回しになる。手先は、不器用。家では乱暴で、人をたたく。
偏食 ほうれん草、なめこ、などヌルヌルしたものは食べない。 - 診断
- ウテメリンと頭部外傷による高機能自閉症、ADHD
- 治療経過
-
- 1回治療後
- 1回の右脳治療で、字が整う。
夜の歯ぎしりが無くなる。落ちついて来た。 - 2回治療後
- 家でギャーギャー言うのが減ってきた。「ああ、そうじゃね」と言うようになる。歯ぎしり無くなる。紐結びは、苦手である。
- 4回治療後
- 性格の角がとれてきた。指示が通るようになる。宿題が早く済むようになる。
算盤が、少し良くできるようになる。問題がすっと解けるようになる。ギャーと言うのが、治療前の50%以下になった。歯ぎしりがなくなる。 - 5回治療後
- 学校のことをしゃべるようになった。性格の角がとれてきた。
- 7回治療後
- 夜の歯ぎしりなくなる。悪夢を見なくなった。
- 9回治療後
- 連絡帳の字が綺麗になった。
- 10回治療後
- 字が綺麗になった。治療前は、ピアニカが、ピポピポしかできなかったが、1ヶ月でできるようになった。縄跳びが2回から20回できるようになった。発達障害評価点が、46点から31点に改善した。
- 12回治療後
- 学校で頑張っている。友達と遊んでいる。大縄跳びをしている。外で遊ぶのが好き。疲れて、家で荒れる。
- 13回治療後
- 夜の奇声なくなる。歯ぎしりがなくなる。
- まとめ
- 出産時の障害と気質の伝播で発症した高機能自閉症と考えられる症例。新経絡治療により、順調に回復した症例です。
症例2
2歳 男児 高機能自閉症
- 現症
- 一人っ子。言葉が遅れ、二語文が出ない。この2-3ケ月で、動物、人名がでるようになる。
3ケ月前に、療育センターを受診し、軽度知的障害および自閉症と診断される。
発達支援は、週5回受けている。ヒトを怖がるのが、2-3ケ月前にひどい。
癇癪がひどい。欲しいものなどが思いどおりにいかないときに、物を投げる、頭を床、壁にぶつける。これが、10分くらい続く。
偏食:葉物は食べない。 - 妊娠・出産の経過
- 妊娠7週まで仕事をする。切迫早産のため、退職した。ウテメリンを9週から2週間内服する。内服で動悸がするので、1週間分しか飲まなかった。その後、入院して、ウテメリンの24時間点滴を25-30週5日(5.7週)まで行う。陣痛~出産30分、30週5日で出産した。出産時泣かず、ピーナツ様の頭の変形あり。未熟児に特有の頭の形と言われる。出生時体重1570g。
- 発育の経過
-
乳幼児健診での異常なし。熱性けいれんは、39℃で、1回のみあり。
3ケ月前に、療育センターで、軽度知的障害、自閉症と診断される。
歩行は、1歳2ケ月。始語は、1歳3ケ月で遅い。
抱かれる 好む、一人遊び あり、ごっこ遊び あり、母親の後追い あり、多動 なし。
親の低血圧はなし。朝が起きづらい。予防接種はしている。利き手は右。予防接種後、毎回高熱が出ていた。その後、熱が下がらなくなり、川崎病になる。
そのため、6ケ月入院し、1週間、ガンマグロブリンの点滴をする。 - 診断
- ウテメリン点滴5.7週間と内服1週間および未熟児による高機能自閉症
- 経過
-
- 1回目治療
- 大人しく治療を受ける。
- 週2回治療
- 糖質を減らし、砂糖は羅漢果糖、魚、豆腐を食べるように指導する。
- 3回治療後
- この1-2週間に言葉が増える。
- 4回治療後
- 癇癪が低下し、機嫌がよくなる。2語文から3語文がでるようになる。
- 5回治療後
- 療育で聞いた「子供の体操」の歌を歌うようになる。
- 6回治療後
- 言葉が良くでるようになる。
- 7回治療後
- キャラクターの名前や恐竜のティラノザウルスの名前を言う。
気遣いができるようになり、外出時に、自分と母親の靴を出すようになる。 - 8回治療後
- 新しい恐竜の名前など言葉が良くでる。お祭りに行くと、親の言ったことを繰り返し言うようになる。
- 10回治療後
- 「ちょうちょ」と言う。
- 11回治療後
- これまで、人見知りしていたが、人に慣れてきた。
- 12回治療後
- 発達支援センターで聞いて覚えた「こいのぼり」の歌を歌う。新経絡治療前までは歌うことはなかった。
- 15回治療後
- 「かえる」の歌を歌う。
- 16回治療後
- いきなり父親の似顔絵で目を描いた。
図15.16回治療後、いきなり父親の似顔絵を描く。 - 17回治療後
- 父親の似顔絵で、耳も描いた。
- 27回治療後
- 母親に、「一緒にボール遊びしよう」と言う。母親が感激する。
- 32回治療後
- 治療前は、20個くらいの言葉だった。「おはよう、わんわん、にゃんにゃん、1,2 ウーウ―、ピポピポ(消防車のこと)」など。治療後、現在は、100個以上の言葉しゃべるようになる。現在、は「消防車」と言える。数字も、10~15まで言える。療育の先生が、子供の急激な言葉の改善のため驚いている。
- 33回治療後
- 初診時には、人を怖がり、人見知りして、母親にべったりだったが、今はなくなり、人に溶け込むようになる。
治療前、癇癪は、週2-3開あり、頭をぶつける状態だった。現在、癇癪は、2週に1回以下に減る。
また、なだめると、気持ちが治まるようになる。器用に体を動かすようになった。力がついてきて、公園などのジャングルジムにも登れるようになる。
以前は、細かい作業ができなかったし、ジャングルジムにも登れなかった。
-
表9は、発達検査の結果を示したものです。低い点数が、症状が少ないことを示します。新経絡治療開始後、4か月で、言葉、子供同士のケンカ、反応のにぶさ、気分の変動、ルールへのこだわり、注意力、転倒しやすさ、球技の項目が改善しています。新経絡治療の効果が顕著であることを示しています。
表9. 発達検査の改善(非常に当てはまる3点、かなり当てはまる2点、少し当てはまる1点、当てはまらない0点) 発達 2023/5/11 2023/9/12 言葉の発達が遅れている 3 1 落ち着きがない 1 1 子供同士で遊ぶのがへたでケンカしがち 3 2 動きがゆっくりで反応が鈍い 3 1 大きな音を極端に嫌がるなど敏感さがある 1 1 きつい音を極端に嫌がるなど敏感さがある 1 1 爪かみをする 0 0
感情 2023/5/11 2023/9/12 気分が変わりやすく不安定 3 1 自分なりのルールやこだわりが強い 3 1 しなければならないことに注意力が弱い 1 0
運動 2023/5/11 2023/9/12 よくころぶ 1 0 ひもを結ぶのが苦手 3 3 服をたたむのが苦手 できない できない 縄跳びが苦手 できない できない 跳び箱が苦手 でいない できない 球技が苦手 1 0 食べこぼしがよくある 1 1 - まとめ
- 新経絡治療により、発語の遅れが改善し、語彙が爆発的に増加し、2-3語文がでるようになる。また、運動能力も発達し、ボール遊びやジャングルジムにも上れるようになる。
8. 結語
ウテメリンの長期投与によると考えられる自閉症の2例を取り上げた。
ウテメリン症例では、交感神経刺激による攻撃または、自傷的な粗暴な行動が目立つ症例が多いと思われる。1例目では、妹をたたく行動をしています。2例目では、頭を床や壁に打ち付ける行動が目立ちます。
このようなお子さんは、早い時期に新経絡治療で介入することで、速やかな改善が見られます。
介入が遅れると、交感神経優位→粗暴な行動→交感神経の強化などの悪循環が形成され、ウテメリンによる交感―副交感神経のバランスの偏位が強化されると考えられます。
胎児期のウテメリン投与は、自閉症のリスクが高いことから、早急に、以下の対応が必要と考えます。
2)ウテメリンは、欧米のように48/72時間以上の長期使用を禁止すること。
3)欧米のように自然型黄体ホルモン療法等の代替治療に移行すること。
4)新経絡治療よる自律神経調節など副作用のない治療の検討が必要です。
Witterらは、β2アドレナリン作動薬の自閉症発症機序として、交感神経の緊張性の亢進を報告しています。私たちは、早急にウテメリンの中止/48時間以上の使用制限、就労者では、軽減勤務/休養療法および安全な代替治療へ移行することを提言します。少なくとも、投与前にウテメリンの自閉症リスクを母親に説明し、服薬の選択を可能にすべきだと思います。
そして、新経絡治療で、ウテメリンの発達障害が改善することから、直ちに治療に取り組まれることをお勧めします。
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